For English readers: I’ve translated this article into English! You can read it here:
The Records I Couldn’t Let Go #8 – Black Magic – Freedom (Make It Funky)
音楽が繋いでくれるご縁に恵まれ、少しずつDJ出演の機会をいただいています。
DJ・ライブ出演、楽曲制作などお気軽にお声がけください。
一緒に音楽を楽しめる機会を、心よりお待ちしております。
#捨てレコ 第8回。
暗闇に浮かぶ円盤が静かに回転を始め、そっと空間を震わせます。針先が描く軌道は音の星座となり、部屋全体に広がって、私だけの宇宙が現れるかのようです。しかし、その光景も今では記憶の彼方へと沈んでいきました。
数千枚の円盤の中から選び抜かれた、永遠に響き続ける一枚。今宵は、その特別な一枚をあなたと共有したいと思います。
1. 響きと造形──このレコードが宿す音の手触り
ジャケットが物語る時代の息吹、盤面に刻まれた音の質感、そして針を落とした瞬間に広がる世界。その造形美と響きを解き明かします。
2. 記憶の座標──この一枚と私の交差点
いつ、どこで、どのように出会い、なぜ最後まで手放せなかったのか。個人的な体験を超え、音楽が持つ記憶の磁力について綴ります。
3. 音の文脈──DJセットの中でこのレコードはどう生きるか
選曲の流れの中で、どの瞬間に鳴らすべき一枚なのか。フロアの温度と共鳴し、他の楽曲と響き合うことで生まれる新たな物語を探ります。
響きと造形──このレコードが宿す音の手触り
■曲
特に思い入れの強い「Color 1-On And On Strong Vocal Mix」について触れます。
1996年、ハウスミュージックがダンスフロアを席巻し、クラブカルチャーが最高潮に達していた時代に、Black Magicの「Freedom (Make It Funky)」がリリースされました。この楽曲は、ニューヨークの名門レーベルStrictly Rhythmから発表され、当時のハウスシーンに新たな風を吹き込んだ一枚です。
ジャケットはシンプルでありながら、そのミニマルなデザインが時代の空気感を見事に表現しています。針を落とすと、13分35秒にわたる音の旅が始まります。特に印象的なのは、グルーヴ感溢れるベースラインと、ファンキーで洗練されたリズムセクションです。「Freedom!」と力強く響くコーラスが、フロア全体を包み込みます。さらに、ミュートされたトランペットのフレーズが楽曲に独特の深みを与え、聴く者を魅了します。
この楽曲の制作では、ハウスミュージックのパイオニアであるLil’ LouisやLouie Vegaが主導しています。Lil’ Louisは「French Kiss」や「The Original Video Clash」といった革新的なトラックで知られていますが、「Freedom (Make It Funky)」では、ソウルやファンクの要素を巧みに取り入れ、彼の音楽的多様性を示しています。このような幅広い音楽性を持つアーティストとしてのLil’ Louisの姿勢は、多くのリスナーに影響を与え続けています。
このレコードは、リリースから年月を経てもなお、その魅力を失うことなく、多くの音楽ファンやDJたちに愛され続けています。その理由は、楽曲自体の完成度の高さと、時代を超えて響く普遍的なグルーヴにあると言えるでしょう。
記憶の座標──この一枚と私の交差点
このレコードを手にしたのは、私がまだハウスミュージックのDJを志したばかりの頃でした。
音楽は大好きでしたがハウスについては右も左も分からないまま、ただ「この曲は素晴らしい」と直感的に感じて購入した一枚です。結果的にその直感は今も変わることなく、間違いのないものでした。
特に当時も今もヤバいと感じるのはベースライン。今の主流からするとかなり低音域を殺したミックスとなっていますが、ディープハウスの一部として踊らせる機能と、弾きまくる・奏でまくるというベースプレイヤーの性がポジティブに出まくっていてシビれます。
当時、この曲の雰囲気をなぞったようなものは数多くリリースされていましたし私も沢山買いました。しかし、そうしたレコードの多くは手放し、この一枚だけが今も手元に残っています。
印象的な出来事として、この曲を収録したDJ MIXをMDに録音し、それを握りしめて中目黒のとあるオフィスへと飛び込んだことが挙げられます。
2000年代初頭、私はまだ学生で、DJとしてのキャリアもなければ、クラブでプレイする機会もありませんでした。しかし、ある大型サーキットイベントのオーガナイザーに直接会いに行こうと決意し、思い切って足を運んだのです。
普段から服装に無頓着だった私は、洗練されたオフィスの雰囲気に圧倒され、緊張で喉が渇きながらも、その場にいた主催者の方にMDを手渡しました。
あの時のMDに収録していた楽曲の多くはすでに思い出せませんが、この「Freedom」だけは鮮明に記憶に残っています。
結果として、そのオーガナイザーとはその後も長く交流が続き、不思議なご縁を感じています。
Lil’ Louisといえば
■The Original Video Clash
■French Kiss
のような衝撃的な楽曲のイメージが先行しているかもしれませんし私も大好きです。しかし、「Freedom」のようによりポップミュージックに近い曲を制作し、かつソウルやファンクの精神をしっかりと宿したハウスミュージックとして機能させているのは素晴らしいとしか言えません。
彼の音楽が持つ「振れ幅」に強く惹かれ、自分もまた、そのような幅広い表現を持つ音楽家、人間になりたいと願うようになりました。
音の文脈──DJセットの中でこのレコードはどう生きるか
この曲をDJ MIXに組み込んだのは、上記の通り20年以上も前のことになります。当時のセットリストの多くは思い出せませんが、この曲だけは確実に入っていました。
「Freedom!」というコーラスワークをじっくりと堪能しながら、長尺で楽しむのも良いでしょう。キーを合わせ、次の曲を慎重に選ぶのも一つの手ですし、まったく異なるキーでぶっといベースの曲をあえてぶつけて、意外性のある流れを作るのも面白いかもしれません。
例えば、Strictly Rhythm繋がりで流れを汲む選曲をするのであれば、
Hardrive – Deep Inside (Low Steppa Remix)
のようなグルーヴィーなディープハウスであるけれどもヤバさを感じさせる、後のベースラインハウスにも継承されてゆくようなサウンドのものに繋ぐのもヨシ。
また、対照的に、ベースの主張が皆無なトラックとの組み合わせも魅力的です。
Dennis Ferrer – Hey Hey
を前後に配置することで、グルーヴの変化を自在に操り、流れに抑揚をつけることができます。
さらに、「Freedom」の余韻を最大限に活かすのであれば、キックを排した
Osunlade – Envision (Ame Acoustic Remix)
を中継ぎとして挟み、その後に太いキックのトラックへと繋げることで、よりドラマチックな展開を作ることも可能です。
ベースラインが本当に好きな曲なので丁寧に繋ぎたいところですが、ハウスDJのロングミックスがもたらす奇抜な組み合わせも、奇跡のようなマッシュアップ感も、この曲の本質を辱めることには至らず、前後のトラックさえ輝きを増すかのような曲だと考えています。
20年以上前、まだ学生だった自分が未来へと託したこの一枚は、今もなお確実にフロアを踊らせる力を持ち続けています。
最後までご覧いただき、心より感謝申し上げます。
あなたの人生にも、時を超えて手放せない音があるのではないでしょうか。
それは深い記憶の中で、いつまでも鮮やかに輝き続ける星のような存在。
その永遠なる響きが、あなたの明日を優しく照らしてゆきますように。
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