捨てられなかったレコード#2 – BLAIR – life?(TEE’S CLUB MIX)

  • 2025.02.10
  • DJ
捨てられなかったレコード#2 – BLAIR – life?(TEE’S CLUB MIX)

For English readers: I’ve translated this article into English! You can read it here:
The Records I Couldn’t Let Go #2 – BLAIR – life?(TEE’S CLUB MIX)

レコードの音は、静寂を侵食します。針を落とすと、密室の空気が震え、音楽が私の創る旋律の中へと溶け込んでいきました。しかし、その部屋は失われました。理由は単純でありながら、不可逆なものでした。

数千枚のレコードを前に、「どれを残すべきか」という試練が始まりました。ただの整理ではありません。これは、これからの音楽人生において「持っていくべき音」を決める儀式のようなものでした。

生き残る音には、それだけの理由があります。
沈黙の中でなお響き続ける一枚を、今日はご紹介します。

1. 響きと造形──このレコードが宿す音の手触り
ジャケットが物語る時代の息吹、盤面に刻まれた音の質感、そして針を落とした瞬間に広がる世界。その造形美と響きを解き明かします。

2. 記憶の座標──この一枚と私の交差点
いつ、どこで、どのように出会い、なぜ最後まで手放せなかったのか。個人的な体験を超え、音楽が持つ記憶の磁力について綴ります。

3. 音の文脈──DJセットの中でこのレコードはどう生きるか
選曲の流れの中で、どの瞬間に鳴らすべき一枚なのか。フロアの温度と共鳴し、他の楽曲と響き合うことで生まれる新たな物語を探ります。

響きと造形──このレコードが宿す音の手触り

toddterry

life

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■曲

BLAIR – life?(TEE’S CLUB MIX)は、まるで真夏の正午、陽光が降り注ぐダンスフロアのように、底抜けに明るく弾むビートを持っています。Todd Terryによるリミックスらしく、リズムは極めてシンプルで、むしろ「削ぎ落とされた」潔さが際立ちます。装飾をそぎ落とし、必要最小限のグルーヴだけを残した結果、まるで「プリセットのビート」のような跳ねたリズムが生まれています。しかし、その単純さこそが中毒性を生み、聴き手を解放する力を持っているのです。

ハイハットは乾いて鋭く、バスドラムは過剰に重すぎず、すべてが「踊るため」に設計されたサウンド。そして、その上に乗るのは「Life? What do you want for life?」というシンプルながらも根源的な問いかけ。この言葉は、曲の明るさとは対照的に、聴く者を思索へと誘います。マイケル・ジャクソンの Man in the Mirror や、Underground Resistanceの Transition のように、単なるダンスミュージックの枠を超えた「哲学」を内包する楽曲と言えるでしょう。

リリースされた1995年当時と比べると、2001年に手にした時点ではハウスのビートはより精緻になり、より洗練されていました。それゆえ、新しさを感じることはありませんでした。しかし、それでもこのレコードには時代に左右されない強度がありました。シンプルな構造ながら、時代を超えてなおフロアで生き続けるダンスミュージックの普遍性。それこそが、このレコードの持つ音の手触りであり、今なおターンテーブルに乗せ続ける理由なのです。

記憶の座標──この一枚と私の交差点

(ハウスミュージックの)DJになろうと決意したのは、大学3年生の頃でした。音楽サークルの先輩DJたちの影響を受け、ターンテーブルとミキサーを購入し、ハウスのレコードを集め始めました。BLAIR – life? は、その初期に手にした一枚です。バナナレコード吉祥寺店の値札には400円とありますが、100円のエサ箱にあったはずです。今でも手に取った瞬間をよく覚えています。

購入したのは2001年。すでにその頃のハウスのビートは1995年のものと比べて進化し、より緻密になっていました。そのため、このレコードを初めて針に乗せたとき、新しさは感じませんでした。しかし、それでもこの曲は本当に素晴らしいと直感しました。明るいビート、跳ねるリズム、そして「Life? What do you want for life?」という率直すぎるメッセージ。その問いかけが、心を強く引き寄せたのです。

このレコードは、何度も何度も繰り返しプレイしました。ターンテーブルに乗せ、ミックスし、また戻し、また針を落とす。その度に、跳ねたビートが体に染み込み、次第に自分の音楽的な核の一部になっていくのを感じました。ピークタイムにも、昼下がりのゆるやかな時間にも、不思議と馴染む楽曲。ダンスフロアの熱狂の中で問われる「人生とは?」という言葉が、単なる歌詞以上の重みを持つ瞬間がある。このレコードが、初期のコレクションの中で今なお手元に残り続けた理由は、そこにあるのだと思います。

音の文脈──DJセットの中でこのレコードはどう生きるか

BPMは決して速くはないものの、跳ねたグルーヴが特徴的なため、シカゴハウスとの相性は抜群です。後にDerrick Carterがリミックスを手掛けていることからも分かるように、シカゴ的な黒いグルーヴの中に放り込んでも違和感がありません。むしろ、Derrickのようなドープなビートに、このアカペラを重ねるだけでも、新たな展開が生まれるはずです。

また、BPMを引き上げれば、2stepやUKガラージとの相性も良くなります。跳ねたビートがそのままUKGのフィールに溶け込み、クラブの温度を一段上げるような役割を果たせるでしょう。しかし、このレコードが最も輝く場面は、やはりピークに近いタイミングでの解放感にあります。エアーマイクであれ、実際にマイクを通してであれ、「Life!」と共に叫びこのフレーズをフロアと共有する瞬間。この曲が持つ哲学的な問いかけを、ダンスの熱狂の中に投げかける。

この楽曲は、単なるダンスミュージックではありません。ピークタイムの爆発力を持ちながら、リスナーに「あなたはどう生きる?」と投げかける力を持っています。DJがこの一枚をフロアに響かせるとき、それは単なる選曲ではなく、一つの意思表明になるのです。

現在、シカゴハウスをメインにした自分のDJ MIXがウェブ上に見つからなかったのですが、10年以上前にディスコやシカゴハウスをミックスしたものが見つかりました。夢眠ねむさんと共演をさせてもらったりしていた頃の記憶が蘇ります。ぜひ聴いてみてください。

ishigakikohei · Dreaming Disco Forever

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
あなたにも、時を超えて手放せない一枚があるでしょうか。
それが、記憶の奥深くで静かに脈打ち、人生の断片を照らし続ける光でありますように。
どうか、その旋律とともに、あなたの心と身体が健やかでありますように。


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