For English readers: I’ve translated this article into English! You can read it here:
The Records I Couldn’t Let Go #10 – BUBBLE-B – Zokkon! Barbecue
音楽が繋いでくれるご縁に恵まれ、少しずつDJ出演の機会をいただいています。
DJ・ライブ出演、楽曲制作などお気軽にお声がけください。
一緒に音楽を楽しめる機会を、心よりお待ちしております。
#捨てレコ 第10回。
深夜、盤面が微かに輝きを放ち始める。針が溝を辿る瞬間、空気が揺れ、部屋は音の海へと変容する。かつて存在した、私だけの音楽宇宙。
失われた空間から救い出した数千の円盤たち。その中でも特別な一枚を、今宵はあなたと分かち合いたい。
今回は、※CD販促用プロモの盤で非売品かつ直接いただいた家宝、BUBBLE-Bさんの「ぞっこん!バーベキュー」について綴ります。
※ハードコアテクノ専門店GUHROOVYにて取扱アリ。お詫びして訂正致します。現在はオフライン/オンライン店舗とも閉業しています。GUHROOVYは同名の音楽ユニットとしても活動しています。
1. 響きと造形──このレコードが宿す音の手触り
ジャケットが物語る時代の息吹、盤面に刻まれた音の質感、そして針を落とした瞬間に広がる世界。その造形美と響きを解き明かします。
2. 記憶の座標──この一枚と私の交差点
いつ、どこで、どのように出会い、なぜ最後まで手放せなかったのか。個人的な体験を超え、音楽が持つ記憶の磁力について綴ります。
3. 音と人のつながり──気仙沼での経験
音楽がもたらす縁は、時に予想もしない場所へと私たちを導きます。震災からの復興の歩みと共に紡がれた人々との絆、そして音楽が果たした役割について綴ります。
4. 音の文脈──DJセットの中でこのレコードはどう生きるか
選曲の流れの中で、どの瞬間に鳴らすべき一枚なのか。フロアの温度と共鳴し、他の楽曲と響き合うことで生まれる新たな物語を探ります。
響きと造形──このレコードが宿す音の手触り
■曲
7インチレコード BUBBLE-B「ぞっこん!バーベキュー」、バボさん(BUBBLE-Bさんの通称)から直接いただいたこの一枚は、単に捨てられないレコードというよりも、家宝と呼ぶにふさわしい存在です。
2002年にリリースされたこの楽曲は、YouTubeで公開された公式ミュージックビデオ(2009年にアップ、既にYouTubeを使いこなしている!)からも伺えるように、当時から「BUBBLE-B式作曲の黄金律」が確立されつつあった証でもあります。
マンボNo.5をサンプリングソースに据え、一見するとラテンハウス的な展開になるかと思いきや、バボさんの根底に流れるテクノの血がビートを硬質に変容させ、「ラテンハウス」ではなく「ラテンテクノ」と呼びたくなるような独自のサウンドを生み出しています。
shexリミックスもまた素晴らしく、マンボNo.5をより激しくカットアップしイルなビートを紡ぎ出しています。
さらに、BUBBLE-B作品に欠かせない存在であるEnjo-Gを擁するバンド「スマイルハンターズ」のバージョンもドリーミンなトランス的テクノとでも言うべきトラックで、リミックスというより完全に作り直された楽曲になっており、多面的な魅力を放っています。
記憶の座標──この一枚と私の交差点
DJをやり始めようと思った当初はハウスDJを目指していたというのは嘘ではありませんが、それ以前のダンスミュージックの音楽的原体験として強烈に心に刻まれていたのは、このSTUDIO VOICEでも紹介された「カラテクノ」を含むナードコアの世界でした。
──この回のSTUDIO VOICEは特集「SPEED KING」、何故人は早さを欲するのか、何故早い者が勝者なのか、何故早くなければならないのか。プラモの箱を型どったデザインで名車を紹介したり、速さの象徴である飛行機や新幹線などを紹介、「高速音楽の現在」としてレイヴミュージックや、私の原体験の1つである「サイケアウツ」周辺の紹介、速弾きの観点から?シャクティとジョンマクラフリン、チャーリーパーカーまでもが紹介されていたりと面白いです。そしてSPEED KING CREWインタビュー記事に続きます。レオパルドン、カラテクノ、シャープネル、DATゾイド、私にとってはレジェンドである方々のインタビューです。
「吉川晃司、スピードの記憶。」としてインタビューを掲載していたり、その次のページに「Cymbals」のインタビュー。映画レビューもバッファロー’66、交渉人、ラン・ローラ・ラン、新譜のレビューがキリンジ「47’45”」、挙げればキリがないですが、メジャーからサブカルまで旬が1冊に詰め込まれていてとても読み応えがあり、今も読んでいて時間を忘れるようです。
その後STUDIO VOICEが休刊となってしまったのが残念でなりません。ウェブメディアやSNSは昨今無くてはならない存在ではあるものの、紙の雑誌をかいつまんだり熟読してしか得られない何かというものは確実にあると思っています。
話を戻しますと、テクノと空手を融合するというハードコア・テクノユニット「カラテクノ」こそ、BUBBLE-Bさんがソロ名義で活動する前から取り組んでいたユニットなのです。ライブでは実際に空手の演舞をする人がいて、バボさんは後ろで音を出すという驚くべきスタイル。
「BUBBLE-B」を名乗る際には、TV CMやTV番組を始めとするそもそも1クセも2クセもあるネタを何でもテクノやハードコアに変換・料理してしまうそのナードな精神、そして元ネタの強度だけに頼らない確かなトラックメイキングと楽曲構成能力を発揮。
私が大学の音楽サークルにいた当時、一部の先輩が「ヤバい奴らがいる」「カラテクノっていうとんでもないのがある」と喜んで紹介していたナードコアの音楽に心を奪われました。当時はギターを弾くだけで人前で歌うことも好きではなく、バンドを組んでいても積極的にオリジナルを作ることもありませんでした。クラブも行きたい場所ではありませんでした。
しかし、そんな私の心にも強烈に刺さってくる曲が点在していたのがナードコア界隈で、「音楽はこんなに自由なのか」「こんなに楽しそうに音楽をやっている人たちがいるのか」という衝撃を受けたのです。
大学時代から十数年の時を経て、2013年3月のMOGRAでのイベント「毛蟹」で初めてバボさんと共演するという奇跡的な縁に恵まれました。MOGRAで「二文字イベント」と呼ばれる熱狂に関われたこともとても良い思い出です。その後、BUBBLE-Bさんが出展しているからとコミケに立ち寄ったり、様々な場面で声をかけていただけるような関係になるとは、当時は想像もしていませんでした。
音と人のつながり──気仙沼での経験
このブログを書いている今、東日本大震災からちょうど14年が経ちました。
最初は復興屋台村 気仙沼横丁でイベント「横丁ライジング」をやるから遊びに来ないか、というBUBBLE-Bさんのお誘いで、パフォーマーの皆さんと一緒に、飲み食いをしてライブを楽しむ要員として大型バスで気仙沼に向かったのです。
震災からだいぶ月日が経っているのに瓦礫や座礁した船の残骸などがそのままであることに衝撃を受けました。一方で、海の幸をはじめ緑ホルモンなど美味しいものを食べ、活気ある祭に参加できたことが心に残っています。それをきっかけに次回からはライブ出演もさせていただくことになり、何度も横丁ライジングに参加する機会に恵まれました。
フードライターとしても活躍されるバボさんは、気仙沼だけでなく日本各地、時には海外へも何度も足を運び、音楽イベントや食を通じて地元の方々と深い絆を築いてゆかれました。その姿勢は、音楽活動だけにとどまらない彼の人間性を象徴するものでした。
最後の横丁ライジングから5年後、2021年にまた気仙沼にお邪魔することになります。復興屋台村 気仙沼横丁で事務局長を務めていた小野寺雄志さんがオープンした「BAR PRISM」のホームページをBUBBLE-Bさんが制作することになり、その素材となる写真を撮ってきて欲しいとのご依頼をいただいたのです。
実際にホームページで私が撮影した写真を使っていただいています。
復興屋台村は2017年3月に仮設商店街としての役割を終え解体されてしまいましたが、そこからほど近く、トレーラーハウス型の店舗を集めた施設「みしおね横丁」の開業と同時の2019年に「BAR PRISM」はオープンしました。
横丁ライジングで伺っていた頃は気仙沼の復興が良いペースで進んでいるとは思えない状況でした。しかし撮影で訪れた時には目と記憶を疑うほどに景色が変わっており、一段と活気づいている気仙沼に触れることができてとても嬉しかったものです。
こういった音楽を超えた縁すらもBUBBLE-Bさんがもたらしてくれたもので、感謝してもしきれません。一枚のレコードを通して思い出すのは、単なる音楽の記憶だけではなく、人と人との繋がりや、困難な時代の中での希望の光なのかもしれません。
音の文脈──DJセットの中でこのレコードはどう生きるか
「ぞっこん!バーベキュー」は、大ネタのマンボNo.5を引用しながらも、バボさんの根底に流れるテクノの血がビートを硬質にさせています。そのためラテン・サンバのハウストラックに繋ぐよりも、Green Velvetやそのリミックスなどの硬めのサウンドかつ面白いものに繋ぎたくなる、意外な相性の良さを持っています。
この曲の魅力は、単なるネタ曲を超えた表現の自由です。既存のジャンルやスタイルを破壊し、新たな地平を切り開く姿勢は、まさにナードコアの精神を体現しています。
BUBBLE-Bさんは、音楽活動にとどまらず多方面で才能を発揮される方です。祭や非日常を楽しむための音楽も作れば、チェーン店に関する書籍も出版したりと日常に欠かせない食の存在も徹底的に追求する。その根底には「常に深く楽しむ」という哲学があるように感じます。「ぞっこん!バーベキュー」は、その哲学を体現した一曲です。
このレコードを手放せない理由は、当然ながら単に非売品という希少性だけではありません。私がCDだけでなく元々レコードでDJをやっていたことを知った上で直接いただいたという経緯、そしてこの曲がBUBBLE-Bスタイルの礎となる作品であるという歴史的価値。そして何より、音楽の自由と喜びを教えてくれたバボさんへの感謝の気持ちがあるからです。
最後までご覧いただき、心より感謝申し上げます。
あなたの人生にも、時を超えて手放せない音があるのではないでしょうか。
それは深い記憶の中で、いつまでも鮮やかに輝き続ける星のような存在。
その永遠なる響きが、あなたの明日を優しく照らしてゆきますように。
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