For English readers: I’ve translated this article into English! You can read it here:
The Records I Couldn’t Let Go #7 – Monari Wakita – IN THE CITY
#捨てレコ 第7回。
深い闇の中、一枚の円盤が静かに回転を始めます。
やがて部屋は共鳴する宇宙へと変容し、針は音の星座を描き出してゆく。
その神秘的な空間は今、過ぎ去ったの景色となりました。
幾千の円盤から永遠なる響きを選び抜いた航海の中で、
今宵は特別な一枚を、あなたとともに紐解いてゆきたいと思います。
1. 響きと造形──このレコードが宿す音の手触り
ジャケットが物語る時代の息吹、盤面に刻まれた音の質感、そして針を落とした瞬間に広がる世界。その造形美と響きを解き明かします。
2. 記憶の座標──この一枚と私の交差点
いつ、どこで、どのように出会い、なぜ最後まで手放せなかったのか。個人的な体験を超え、音楽が持つ記憶の磁力について綴ります。
3. 音の文脈──DJセットの中でこのレコードはどう生きるか
選曲の流れの中で、どの瞬間に鳴らすべき一枚なのか。フロアの温度と共鳴し、他の楽曲と響き合うことで生まれる新たな物語を探ります。
響きと造形──このレコードが宿す音の手触り
■曲
レコードというものは、手に取った瞬間にある程度その音の質感が伝わってきます。ジャケットのデザイン、盤の重み、針を落とした際の響き。それらが一体となり、そのレコードの「存在感」を形作っています。
脇田もなりさんの「IN THE CITY」は、まさにそうした一枚でございます。
シティポップらしい洗練された空気感を纏い、確かなグルーヴが息づいています。アン・ルイス「恋のブギ・ウギ・トレイン」へのオマージュを感じさせるアレンジが秀逸で、ディスコやブギーのエッセンスを受け継ぎながらも、単なる懐古に終わらない点が魅力的です。
BPM132というハウスミュージック軸で言うと少し速いとも言えるBPMで疾走感を持ちながら、キックを強調しすぎず、心地よいリズムで身体を揺らします。ダンスミュージックとしての強度、シティポップの洗練、そしてJPOPならではのキャッチーさ。そのバランスが絶妙に取れている1曲です。
記憶の座標──この一枚と私の交差点
「IN THE CITY」との出会いは、私がDJとしての軸を考え直すきっかけにもなりました。
元々、私のDJスタイルの出発点はハウスミュージックでした。四つ打を基盤にJPOPや歌謡曲を織り交ぜるプレイをしていましたが、次第にBPMの枠を超え、遅いものならHIPHOP、速いものならドラムンベースまで好きになり、プレイスタイルも広がっていったのです。さらに、Future Bass、Colour Bassといったベースミュージックにも興味を持つようになり、「ジャンル」ではなく「グルーヴ」として音楽を捉えるようになってまいりました。
その過程で、ひとつ気づいたことがあります。ハウスやテクノはレコードで、JPOPはCDやデータで、という無意識の選別をしていたのではないか。自分のDJスタイルを象徴するような一枚のレコードを探しても、なかなか見つからなかったのは、その選別の結果だったのかもしれません。
そんなときに、この曲、このレコードと出会いました。
この曲ならば、ハウス・ディスコ的解釈も可能であるし、シティポップとしてもカテゴライズされる。両者を繋ぐ橋だと思いました。
2016年、京都BlueEyesでのイベント「Glitter Girls Assort Extra1」で脇田もなりさんやこの曲の作編曲ご担当のはせはじむさんと共演、私はギター弾き語りのスタイルで出演。その際に、このレコードにサインをいただきました。それ以来、私にとって特別な一枚となっております。
また、それ以外でも何度か共演をしていますし、脇田さんの活動には、以前から勝手ながら縁を感じておりました。
クラウドファンディングサービスの黎明期に、彼女が在籍していたEspeciaも、私たちの旧体制であるトーニャハーディングも、同じプラットフォーム(現在はサービス終了)を利用しアナログレコードのリリースを実現させていたという偶然がございます。
また、脇田さんの「Boy Friend」も大変素晴らしい曲で、こちらもレコードを所有しています。
そして現在、脇田さんは7人組のバンド“YIKO”メンバーとして新たな挑戦を始められております。ロック、ソウル、ファンクを自在に取り入れた独自の音楽を鳴らし、2024年12月にはEP『YIKO』をリリース。これまでとはまた違う表現の可能性を追求されている姿に、引き続き注目して参ります。
音の文脈──DJセットの中でこのレコードはどう生きるか
JPOPのDJには、大きく二つのタイプがあると思います。「文脈」や「歴史」を重視するスタイルと、曲同士の音の相性や遊び心を優先するスタイルです。私はどちらかといえば後者で、意外な組み合わせや、曲間のつながりの妙を楽しむプレイを心がけております。
「IN THE CITY」は、その両方の視点で価値のある楽曲です。
BPM132というテンポ感は、ディスコ/ブギー寄りのハウスに溶け込ませるのに適しており、シティポップの枠を超え、直接身体に訴えかけるダンスミュージックとしても機能します。ミックスの中に組み込むことで、新旧のサウンドが交差する瞬間を作り出すこともできるでしょう。
ハウスやJPOPの垣根を超えて、自由に音を紡ぐことができるのが魅力です。ターンテーブルでピッチを調整すれば、ディスコ寄りのハウスセットにも違和感なく馴染みますし、もちろん前述の通り70年代シティポップなど文脈を意識した流れにも組み込むことが可能です。
「IN THE CITY」は、単なるシティポップの一曲ではありません。
それは、広義のハウスミュージックとJPOPの間に橋を架けるような存在であり、まさに私が求めていた「一枚でスタイルを体現できるレコード」です。
最後までご覧いただき、心より感謝申し上げます。
あなたの人生にも、時を超えて手放せない音があるのではないでしょうか。
それは深い記憶の中で、いつまでも鮮やかに輝き続ける星のような存在。
その永遠なる響きが、あなたの明日を優しく照らしてゆきますように。
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