音圧戦争が「終わった」と目にすることが多くなった今、私たち一部のアマチュアやインディーズのクリエイターたちにとって、その言葉はどこか別世界の話のように感じられます。SpotifyのようなストリーミングサービスやYouTubeなどのサービスが導入した「ラウドネス・ノーマライゼーション」という技術が、音量を統一する役割を果たしているため、かつてのように「音を大きくして目立つ」という競争は減少しているようです。それでも、音楽制作の現場で本当の意味で音圧戦争に「参加すらできていない」私たちには、まだまだ大きな課題が残されていると感じます。
音圧戦争に「参加すらできていない」現実
音圧戦争の話題がSNSで取り上げられる中、プロフェッショナルが持つ豊富なツールや技術を見ると、それはまるで別の次元の話のように思えることがしばしばあります。彼らは、長年の経験と高性能なツールを駆使し、音圧を自在に操ります。対して、私たちアマチュアは、どうやって楽曲を高いクオリティに仕上げるか、そしてその中で音圧をうまく調整するかという問題に苦心しています。LUFS（ラウドネスユニット）という基準が定まった現代においては、かつての「音圧を高めるための競争」は減少していると言われていますが、実際には、その基準に沿った制作すら簡単ではありません。作曲、録音、編曲、ミックスから、最終的なマスタリングまでのすべての段階で、微細な技術が必要です。
ミックス作業の細かさと苦悩
音楽制作におけるミックス作業は、単なる音の配置ではなく、楽曲全体の「物語」を紡ぐような作業です。一音一音がどのように絡み合い、リスナーに伝わるかを考慮しながら、音のバランスを調整していきます。例えば、ドラムのスネアが響きすぎないようにし、ベースが低音域で他の楽器を埋もれさせないようにEQを調整する。この作業は、音を一つ一つ丁寧に彫刻するかのような感覚です。プロのエンジニアであれば、経験と知識でこれらを迅速に行うかもしれませんが、アマチュアにとってはこの微細な調整が試行錯誤の連続です。
ミックス作業では、楽器同士の位置関係や音量バランスを適切に保つ必要があります。ボーカルが前に出すぎると他の楽器が埋もれてしまい、逆にバックに引きすぎると曲全体が薄っぺらく感じられる。パンニングやフェーダーの操作一つで楽曲の印象が大きく変わるため、全体としてのバランス感覚が非常に重要です。さらに、エフェクトやダイナミクスの処理を適切に施すことで、曲の深みや立体感を引き出すことが求められますが、それはまるで砂の城を一粒一粒積み上げるような作業です。
音圧のコントロールという最終段階
ミックスを終えたとしても、次に待ち受けるのはマスタリングという試練です。ここでの目的は、楽曲全体を統一感のあるサウンドに仕上げると同時に、適切な音圧を確保することです。しかし、これは音をただ大きくすればよいわけではありません。音圧を上げすぎればクリッピング（音割れ）や音質の劣化が生じ、逆に控えすぎると他の曲と比較して「小さい」と感じられてしまう恐れがあります。この微妙なバランスを取るためには、リミッターやコンプレッサーといったツールを適切に使いこなさなければならず、それが簡単なことではないのです。
たとえば、Cubaseや他のDAWソフト、外部プラグインなどには、音圧を調整するための様々なツールが揃っていますが、それらを効果的に使いこなすためには、経験と知識が必要です。LUFSやトゥルーピークといった音量基準を守りつつ、リスナーにとって心地よい音を作り出すには、高度な技術が求められます。特に、ストリーミングサービスでの再生時に、他の楽曲に比べて音が小さく聞こえないようにしつつ、ダイナミクスを損なわないバランスを見つけるのは、まるで綱渡りのような作業です。
まだ終わっていない戦い
こうした現状を踏まえると、「音圧戦争は終わった」という言葉は、プロフェッショナルの領域でのみ語られるものに過ぎないのかもしれません。アマチュアやインディーズの一部の世界では、まだまだその戦いに参加するための技術や知識が足りていないのが現実です。音圧を上げること自体が悪いわけではなく、その音圧が楽曲の内容を正しく伝え、リスナーに心地よい体験を提供することが重要です。過剰な音圧は逆にリスナーの疲労を引き起こし、音楽体験を損なうこともありますが、適切なバランスで音圧を管理することは、音楽制作の重要なスキルの一つです。
私自身、音圧の調整やミックス、マスタリングの技術をさらに磨き、少しでもリスナーに良い音楽体験を提供できるようにこれからも挑戦を続けたいと思います。音圧戦争が「終わった」と達観するのではなく、その技術を習得するための戦いはまだ続いているのです。音楽制作という旅路の中で、その挑戦こそが価値あるものだと信じています。
結論として、音圧戦争はプロフェッショナルにとっては終わりつつあるかもしれませんが、私たちアマチュアやインディーズの世界では、その「戦い」に参加するための道のりはまだまだ続いています。音楽制作は試行錯誤の連続であり、その過程こそが音楽の醍醐味なのです。挑戦し続けることが、私たちの音楽をより豊かにしていくのだと、確信しています。
